✧ 称制
称制は一般にいう人称代名詞や指示代名詞に相当する文法要素で、人称系と指示称系に分けられています。
❖【人称系】
ゼノス語では”自己と認識の対象との一時的な関係の種類”を表すものを人称といいます。
自然言語とは分類や考え方が異なるので注意が必要です。
まずゼノスでは自己が何かを認識の対象とする事を対象化といい、その対象を(概念として)表す言葉に変換する事を言語化といいます。
そして対象化+言語化を認識といいます。
更にゼノスでは何かを認識の対象とした時に、自己とその対象との間には関係領域というものが発生すると考えます。
関係領域とは対象と自己を何らかの関係性で結ぶ領域です。
これは通常は対象を表す言葉に変換し、それを発話するという状況では意識されませんが、その場合でも関係領域は発生しています。
例えば壁を思い浮かべるなり、実際に目を向けるなり、意識する事で対象化し、それが壁だというように語に変換し認識が完了しますが、それを例えばAという人が壁に目があるのを発見し、Bという人に「壁に目があるのは何故?」と発話すれば、その際の壁と自己との関係領域内での関係は三人称的(間接的)、
それとは違い「おい、壁!」と壁に対して直接的に発話すれば壁と自己との関係領域内においての関係は(呼格的)二人称的(直接的)というように、
同じ対象を表す語を使用していても関係領域内においての関係性には違いがあります。
ゼノスにおいての人称とはその関係領域内においての自己と対象との関係性の方に着目し、自己と認識の対象との関係の種類(自己にとって対象がどういった関係にあるものなのか)を表す文法要素です。
注意が必要なのは、この関係の種類というのは親にとっての子や、恋人や上司・部下などの実際の関係や永続的なものではなく、あくまでも関係領域内での一時的な関係です。
そして認識の対象が変わる度に新たにその対象との関係領域が発生します。
その関係領域において対象が自己にとって”直接的に対峙する関係にあるもの”と認識されればその対象を二人称で表し、
対象が”間接的な関係にあるもの”と認識されれば三人称で表すという感じです。
一人称の場合は実空間で対象化する事は無理ですが、イメージの中で分裂した外からの視点で自分を見れば自分を認識の対象とする事ができます。
そして自分を認識の対象とした時に関係領域においてその対象が自己にとって”自身だと認識されたもの”を表すのがゼノスでいう一人称です。
結果的に数字が増えるにつれて自己との関係の距離が遠くなる事になります。
では一般にいう代名詞として使用されないのかというと、実際はそういうわけではなく、
普通に代名詞としても使用されます。
それは代名詞用法と言います。
しかし実際の使用においてはそれが(ゼノスにおいての)本来の人称の意味で使われているのか、代名詞用法なのかの区別は曖昧な場合が多く重複的な意味で使用されていたりもするので、あまり考える必要はないところかもしれません。
| 単数 | 複数 |
全人称 | - | OWN |
零人称 | ENU | - |
一人称 | ЯAI | ЯAIN |
二人称 | FEW | FEWN |
三人称 | |
男性 | VUI | VUIN |
女性 | QUI | QUIN |
物(人以外) | SUI | SUIN |
四人称 | |
人 | ЯOI | ЯOIN |
物(人以外) | DROI | DROIN |
五人称 | XEU | XEUN |
- [全人称] OWN 全て
これは全てをまとめた包括タイプのようなもので、ゼノスにおいての人称の本来の意味でいけば、宇宙の全てを認識の対象とし、発生した関係領域内においてあらゆる関係にあるもの達をまとめて表す意味になりますが、実際は基本的に代名詞用法としてしか使われず、「全て」「みんな」「森羅万象」などを意味します。
- [零人称] ENU 全てであるもの
これは全てを一つにまとめた同化タイプのようなもので、一人称であり、二人称であり、それ以外の全てでもあるものを意味します。
なのでゼノスにおいての人称の本来の意味でいけば、”自己から関係領域内においてあり得る全ての関係性にあると認識されたもの”という事になりますが、実際は使うとしても単純に”(宇宙の)全てであるもの”の意味で使用されます。
- [一人称] ЯAI 私
自己から自身と認識されたもの。
結果的に話者を表します。
複数形は本来の人称の定義では自身がクローンのように複数という意味になってしまいますが、
実際は自己から自身と共同の立場=共同の話し手であると認識されたものも表します。
つまり普通の一人称複数形と同じようにも使用可能という事です。
- [二人称] FEW 貴方
自己から(対峙・対面する)直接的な関係にあると認識されたもの。
ここでいう直接的な関係とは自分と対峙・対面する相手=対話相手を意味するので結果的に聞き手を表します。
- [三人称] VUI 彼、QUI 彼女
自己から間接的な関係かつ、特定性があると認識されたもの。
ここでいう間接的な関係とは、自身という関係になく、直接的に対峙する関係にもないもので、ここでいう特定性があるとは会話の流れや状況からある程度対象の属性が判明してるという意味です。
結果的には話し手と聞き手以外、つまり話題となるものを意味します。
ちなみに現実世界の言語ではブラックフット語やポタワトミ語では談話の最初に現れたものが「三人称」、二番目に現れたものが「四人称」、三番目に現れたものが「五人称」となっていますがゼノスではそれらは四人称や五人称とは言わず、全て三人称に序数詞を付けて区別します。
例えば第一、第二、第三を表す序数詞は順にFEZAR、DYUWAR、STARですが、
談話の最初に現れたものなら
FEZAR-VUI
二番目に現れたものなら
DYUWAR-VUI
三番目に現れたものなら
STAR-VUI
というように三人称の前に序数詞を付けて間をハイフンで結んだ形でこれらを区別して表します。
自然言語とは違い、これらはあくまでも”第一 ”三人称、”第二”三人称、”第三”三人称、といい、ゼノスでは四人称、五人称とは言わないので注意が必要です。
(そもそも人称の一、二、三、自体が第一、第二、第三なのでこれもややこしいですが...)
- [四人称]
自己から間接的な関係かつ、人なのか物(人以外)なのか以外は属性が不明と認識されたもの。
これは要する”誰だかわからない人”、”何だかわからないもの”を表します。
フランス語のonが近いといえば近いです。
しかし、自然言語でいう四人称は不定、総称、包括など幾つか用法がありますが、ゼノスの四人称は総称や包括の意味はなく、一般にいう不定人称が近いです。
つまり「誰か」という意味での「人」と訳す事が出来ても、「誰でも」のような総称としての「人」とは訳す事ができません。
- [五人称] XEU
自己から間接的な関係かつ、人なのか何なのかの判別すらできないと認識されたもの。
これは四人称とは少し違い、「誰か」なのか「何か」なのかの判別すらつかないものという事になりますが、
四人称より更に不定度が高いので、
「未知の誰か・何か」という意味になります。
《包括タイプ》
- [一人称単数+二人称単数] LILEI 私とあなた、私達
最小の包括タイプです。
- [一人称複数+二人称単数] LINLEI 私達とあなた、私達
- [一人称単数+二人称複数] LILEIN 私とあなた達、私達
- [一人称複数+二人称複数] LINLEIN 私達とあなた達、私達
- [一人称単数+三人称単数] SASOI 私と彼、私達
- [一人称単数+三人称単数] SANSOI 私達と彼、私達
- [一人称複数+三人称単数] SASOIN 私と彼達、私達
- [一人称複数+三人称複数] SANSOIN 私達と彼、私達
- [二人称単数+三人称単数] FEVAI あなたと彼、あなた達
- [二人称複数+二人称単数] FENVAI あなた達と彼、あなた達
- [二人称複数+二人称複数] FEVAIN あなたと彼達、あなた達
- [二人称複数+二人称複数] FENVAIN あなた達と彼達、あなた達
《同化タイプ》
- [一人称単数+二人称単数] MITOI 私であり貴方であるもの
ほぼ使用する機会はありませんが、
例えば鏡に映った自分に対して日本語では私といい、英語ではyouという傾向があるようですが、
ゼノスでは一人称や二人称はではなく、
この同化タイプの一人称単数+二人称単数のMITOIを使用します。
つまり鏡の中の自分を客体化しつつも、しかし同一であるというような回りくどい捉え方をします。
日常的にはそういった場面でしか使用する機
会がないものです。
- [一人称複数+二人称単数] MINTOI I 私達であり貴方であるもの
基本的には使用する機会はありません
- [一人称単数+二人称複数] MITOIN I 私であり貴方達であるもの
基本的には使用する機会はありません
- [一人称複数+二人称複数] MINTOIN I 私達であり貴方達であるもの
基本的には使用する機会はありません
- [一人称単数+三人称単数] KANEI 私であり彼であるもの
基本的には使用する機会はありません。
- [一人称複数+三人称単数] KANNEI 私達であり彼であるもの
基本的には使用する機会はありません。
- [一人称単数+三人称複数] KANEIN 私であり彼達であるもの
基本的には使用する機会はありません。
- [一人称複数+三人称複数] KANNEIN 私達であり彼達であるもの
基本的には使用する機会はありません。
- [二人称単数+三人称単数] WEMUI 貴方であり彼であるもの
基本的には使用する機会はありません。
- [二人称複数+三人称単数] WENMUI 貴方であり彼であるもの
基本的には使用する機会はありません。
- [二人称単数+三人称複数] WEMUIN 貴方であり彼であるもの
基本的には使用する機会はありません。
- [二人称複数+三人称複数] WENMUIN 貴方であり彼であるもの
基本的には使用する機会はありません。
《属格形》
人称には属格形もあります。
| 単数 | 複数 |
全人称 | - | OWNTS |
零人称 | ENUTS | - |
一人称 | ЯAITS | ЯAINTS |
二人称 | FEWTS | FEWNTS |
男性 | VUITS | VUINTS |
女性 | QUITS | QUINTS |
物(人以外) | SUITS | SUINTS |
人 | ЯOITS | ЯOINTS |
物(以外) | DЯOITS | DЯOINTS |
五人称 | XEUTS | XEUNTS |
【指示称系】
指示称系はエスペラントの相関詞のようなものです。
| 近称 | 中称 | 遠称 | 不定 | 疑問 | |
事物(単数) | EI | これ | YUI | それ | AI | あれ | XOI | 何か | JEI | 何 | 名詞タイプ |
事物(複数) | EIN | これら | YUIN | それら | AIN | あれら | XOIN | 何か達 | JEIN | 何達 |
選択(人) | ENOI | この人 | YUNOI | その人 | ANOI | あの人 | XONOI | 誰か | JENOI | 誰 |
選択(物) | ETOI | この物 | YUTOI | その物 | ATOI | あの物 | XOTOI | どれか | JETOI | どれ |
場所 | ENED | ここ | YUNED | そこ | ANED | あそこ | XONED | どこか | JENED | どこ |
方向 | EUZ | こっち | YUUZ | そっち | AUZ | あっち | XOUZ | ある方向 | JEUZ | どっち |
時間 | EIM | この時 | YUIM | その時 | AIM | あの時 | XOIM | いつか | JEIM | いつ |
方法 | ETWARS | この方法 | YUTWARS | その方法 | ATWARS | あの方法 | XOTWARS | なんらかの方法 | JETWAHS | どんな方法 |
指示 | EZ | この | YUZ | その | AZ | あの | XOZ | ある | JEZ | どの | 形容詞タイプ |
性質 | EUTY | こんな | YUUTY | そんな | AUTY | あんな | XOUTY | ある種の | JEUTY | どんな |
属格 | EITS | これの | YUITS | それの | AITS | あれの | XOITS | 誰かの | JEITS | どれの |
自動詞・他動詞 | EHAV | こうする | YUHAV | そうする | AHAV | ああする | XOHAV | 何らかの動作をする | JEHAV | どうする・何する | 動詞タイプ |
理由・原因 | ENEXH | これ故 | YUNEXH | それ故 | ANEXH | あれ故 | XONEXH | 何故か | JENEXH | 何故 | 副詞タイプ |
程度 | EIVN | これ程 | YUIVN | それ程 | AIVN | あれ程 | XOIVN | ある程度で | JEIVN | どれほど |
数量 | EMIGG | これだけ | YUMIGG | それだけ | AMIGG | あれだけ | XOMIGG | いくらか | JEMIGG | どれだけ |
様態 | ELEEJ | このように | YULEEJ | そのように | ALEEJ | あのように | XOMEEJ | ある様相・状態で | JEMEEJ | どのように |
| 特定 | 不特定 | 一部 | 全部 | 非存在 | |
事物(単数) | TRUI | とあるもの | BROI | なんでもないもの | STUN | 一部 | HYUVIN | 全部 | BИAI | 存在しないもの | 名詞タイプ |
事物(複数) | TRUIN | とあるもの達 | BROIN | なんでもないもの達 | STUN | 一部 | HYUVIN | 全部 | BИAIN | 存在しないもの達 |
場所 | TRUNED | とある場所 | BRONED | 何処でもない場所 | STUNED | 一部の場所 | HYUVINED | あらゆる場所 | BИANED | 存在しない場所 |
方向 | TRUUZ | とある方向 | BROUZ | どっちでもない方向 | STUUZ | 一部の方向 | HYUVIUZ | あらゆる方向 | BИAUZ | 存在しない方向 |
時間 | TRUIM | とある時 | BROIM | いつでもない時 | STUIM | 一部の時 | HYUVIIM | いつも | BИAIM | 存在しない時 |
方法 | TRUTWARS | とある方法 | BROTWARS | なんてことない方法 | STUTWARS | 一部の方法 | HYUTWARS | あらゆる方法 | BИATWARS | 存在しない方法 |
指示 | TRUZ | とある〜 | BROZ | なんでもない〜 | STUZ | 一部の | HYUVIZ | あらゆる〜 | BИAZ | 存在しない〜 | 形容詞タイプ |
性質 | TRUUTY | とある種類・性質の〜 | BROUTY | なんでもない・どれというわけでもない種類・性質の〜 | STUUTY | 一部の種の〜 | HYUVIUTY | あらゆる種類の〜 | BИAUTY | 存在しない種類・性質の〜 |
属格 | TRUITS | とあるものの〜 | BROITS | なんでもないものの〜 | STUITS | 一部のものの〜 | HYUVIITS | あらゆるものの〜 | BИAITS | 存在しないものの |
自動詞・他動詞 | TRUHAV | とある動作をする | BROHAV | なんでもない動作をする | STUHAV | 限られた動作をする | HYUVIHAV | あらゆる動作をする | BИAHAV | 存在しない動作をする | 動詞タイプ |
理由・原因 | TRUNEXH | とある理由で | BRONEXH | なんでもない理由で、どうというわけでもなく | STUNEXH | 限られた理由で | HYUVINEXH | あらゆる理由で | BИANEXH | 存在しない理由 | 副詞タイプ |
程度 | TRUIVN | とある程度で | BROIVN | なんでもない程度で | STUIVN | 限られた程度で | HYUVIIVN | あらゆる程度で | BИAIVN | 存在しない程度で |
数量 | TRUMIGG | とある数量で | BROMIGG | いくらでもない数量で | STUMIGG | 限られた数量で | HYUVIMIGG | ありったけ | BИAMIGG | 存在しない数量で |
様態 | TRUMEEJ | とある様相・状態で | BROMEEJ | なんでもない様相・状態で、どうという感じでもなく | STUMEEJ | 限られた様相・状態で | HYUVIMEEJ | あらゆる様相・状態で | BИAMEEJ | 存在しない様相・状態で |
- [疑問]
話し手にとって疑問となる物事を表します。
- 例
FEW JEHAV_ЯUZ?
貴方はどうする?
- [特定]
これは話者の中では特定しているものの、聞き手にはそれを暈して曖昧に言う場合に使用されます。
- 例
YUNED STAZZ QUI TRUHAV_ЯOG
そこで彼女はとある動作をした
- [不特定]
これは特徴を上げるほどでもない物事を表します。
- 例
BROI LUTEW KROKK_ЯES VEW BRONED
誰でもないものが何処でもない場所で歩いている
- [一部]
一部・限られた範囲の物事を表します。
事物が単数と複数の区別はなく同形になっているのは一部といいつつそれが単数の可能性もあるためです。
- 例
STUZ ЯOID DAIZ_ЯOG JETS
一部の人間が猫を殺した
- [全部]
全ての物事を表します。
全人称の場合は宇宙全体の全てという森羅万象的なある意味限定された全てを意味しますが、
これは範囲が限定されていません。
例えば話者が地球を範囲としていたらその場合のHИUVIIは地球上の全員を指しますが、
話者が自分の所属している環境を範囲としていたらそれはその環境内の全員という意味になるので文脈などで判断する事になります。
これも事物が単数と複数の区別はなく同形になっているのは全部といいつつそれが単数の可能性もあるためです。
- 例
VUI HYUVIMIGG BOSH_ЯOG TERM
彼が林檎をありったけ投げた
- [非存在]
存在しない物事を表します。
これも範囲は限定されていないので、宇宙に存在しないのか特定の環境の中に存在しないという意味なのかは文脈で判断する事になります。
- 例
ЯAI GRAP_ЯOG BИAI
私は存在しないものを食べた